皆様こんにちは。
前回に引き続き、「ワシントンDCエリアの鉄道」について書こうと思います。今日は、地下鉄についてです。
東京とほぼ同じ路線長、駅数は半分、利用者数は東京の数パーセント
ワシントンDCには、地下鉄が走っています。路線図はこちらの通りで、ワシントンDCのダウンタウンエリアを中心とし、周辺に向けて6本の路線が放射状に伸びています。ワシントンDCと隣接するメリーランド州、ヴァージニア州にもまたがっています。路線名は色で決められており(Red line, Blue line等)、外からの観光客にも分かりやすいです。
2017年のファクトシートによると、路線数は6、駅数は91、総路線距離は118マイル(約190km)です。日本と比較すると、東京メトロは路線数9、駅数179、総路線距離195.1kmです。ワシントンDCの地下鉄は、東京メトロとほぼ同じ営業キロということになります。一方、駅数が約半分ということになり、平均駅間距離(総路線距離÷駅数)を比較すると、東京メトロは約1.1kmごとに駅があるのに対し、ワシントンDCは約2.1kmと、駅間距離は約2倍です。ただし、実際にワシントンDCの地下鉄の駅の間隔が全て広いというわけではなく、路線が郊外まで広く伸びていて、郊外では駅の間隔が長いからではないかと思います。なお、地上や高架の上を走っている区間が全体の57%に上り、実際に「地下」を走る区間は半分以下ということになります。実際、路線によっては市街地の外れで地上に出ると、あとは何もない原野のようなところ延々と走っていくところもあり、首都圏の地下を走っていたはずなのになと不思議な感覚になります。
開業は1976年です。東京1927年、ニューヨーク1904年と比べると非常に新しいです。従業員数は、公式情報は見つけられませんでしたがGreater Greater Washingtonの2016年7月18日のニュース記事によると2015年には10,269名(フルタイムの社員数)だそうです。
2017年の輸送人員は、1日当たり44万人です。非常に多くの人が利用しているように見えますが、東京メトロは1日724万人、旧大阪市営地下鉄が1日238万人なので、日本の地下鉄と比べると非常に少ないです。福岡市営地下鉄(1日43.9万人)とほぼ同じ数字です。朝のラッシュに乗ってみても、日本のようにぎゅうぎゅうに押し込まれた状態になることはなく、立っている人がたくさんいるな、というくらいです。東京メトロと比べると、ラッシュ時の本数も1列車あたりの両数も全体としては少なめなのにもかかわらずです。
3州が共同で運行する公共交通
ワシントンDCの地下鉄は、ワシントン首都圏交通局(Washington Metropolitan Area Transit Authority:通称WMATA)によって運営されています。WMATAは、ワシントンDC、メリーランド州、ヴァージニア州の3州の協定(Compact)に基づく組織です。(厳密には、ワシントンDCは州ではないのですが)
WMATAのミッションは、「安全で、公平で、信頼できて費用効果の高い公共交通を提供する」こと。
WMATAは、地下鉄のほかメトロバスと呼ばれるワシントンDCを中心とする路線バスも運行しており、一日に30.6万人を運んでいます。そのほか、なんと警察組織(Metro Transit Police Department:メトロ交通警察部)も持っており、地下鉄施設やメトロバスにおける法の執行や公共の安全の確保を担っています。警察官の数は490人で、3,885平方キロメートルの範囲にわたって警察権と逮捕権を持っているとのこと。
WMATAの収支
WMATAの損益計算書によると、2017年は営業収入及び営業外収入が809百万ドル(うち営業収入が789百万ドル)、補助金及び資本拠出収入が1,797百万ドル(うち補助金1,075百万ドル)で、収入計2,606百万ドルのうち営業収入は31.1%、補助金が41.2%ということになります。費用計は2,780百万ドル(うち営業費2,757百万ドル)で、営業収入の3.5倍の営業費が発生しており、174百万ドルの純損失を出しています。ファクトシートによると、日々の運行にかかる経費は、52%は運賃やその他の収入で、48%は州政府や地方自治体からの拠出で賄われているとのことです。WMATAはバスも含んでおり、かつ基準がそろっているかややあいまいですが、営業費の94.8%がチケット収入等で賄えているAmtrakと比べて、かなり収益性が低いです。
一物二価の運賃
運賃は、日本と同じように距離によって決まります。日本と異なっていて面白いのは、ピークとオフピークで値段が違うことです。値段は、ピークの方が高く設定されています。ピークは、朝夕の通勤通学のラッシュ時間にあたる平日の初電~午前9:30と午後15:00~19:00です。平日のそれ以外の時間帯及び土休日は、オフピークです。
値段はピークの方が高く設定されており、オフピークの運賃は初乗り$2.00で最大$3.85である一方、ピークは初乗り$2.25で最大$6.00です。ざっくりというと、ラッシュ時には、初乗り区間で12.5%増し、最も高い区間では実に55.8%増しということになります。需要が多くなると価格が高くなるというのは他の商品では当たり前の仕組み、しかも、鉄道の場合は朝のラッシュのために車両や人員を用意する必要があります。ピーク運賃を高くすることは、理にかなっているように思えます。一方、鉄道は市場をある程度独占しているインフラであり、「いくら高くてもみんな乗るから」と値上げされてしまうことのないよう、規制が必要だという考え方もあるかもしれません。もちろん、民営か公営なのかの違いもあります。ちなみに、東京メトロの場合は、初乗り170円、最高310円(いずれも紙の切符の場合)で、ピークでもオフピークでも同じです。この辺りは、日本との違いが非常に興味深く、また改めて記事にしたいと思います。
ワシントンDC版Suica?
日本では、Suica、ICOCA等様々な鉄道系ICカードが発売されていますが、ワシントンDCではスマートリップ(SmarTrip)というカードが発売されています。地下鉄に乗る際は必ずカードを購入する必要があり、日本のように紙の切符はありません。カードを購入する際には、カード代が$2かかります。カードの払い戻しの説明ページによると、ワシントンDCから半径100マイル以上離れたところに住んでいる人に対しては不要になったカードを現金で払い戻してくれるそうですが、あまり認知されていないかもしれません。購入したカードをウェブに登録しておくと、オートチャージができたり、紛失してしまった際に利用できなくしたうえで残高を新しいカードに引き継いだりもできるのですが、ほとんど知られていなさそうです…。(駅にそのような張り紙やお知らせは一切なく、webで見るか駅員さんに聞くくらいしか知りようがなさそうです)
ちなみに、日本の鉄道系ICカードは駅以外のお店での支払いに使えるケースも多いですが、スマートリップカードはそのようなことはありません。
写真
以下、写真を載せます。
改札と駅事務室。どこの駅も同じようなデザインです。自動改札は反応が悪く、「ピッ」という音もしないので立往生する人が多くみられます。
ホームと車両。駅の中は全体に暗いですが、ニューヨークの地下鉄等と比べると広々としていてきれいな方です。車両は、6両か8両です。
車内。新しい車両(川崎重工製)だと、路線図や広告が出るスクリーンがあります。座席は、遊園地の乗り物かのような独特な形です。
ダイヤが乱れることや工事のため列車本数が削減されることも多く、今一つ信頼性に欠ける交通手段だというのが、正直な感想です。運転が荒々しいことも多く、乗り心地もよくないです。ワシントンDC市内は朝も夕方も渋滞がひどく、もう少し地下鉄が便利になれば道路事情も改善するかもしれないなと感じます。
公共交通ネタが続いていますが、あと数回続けようと思います。お読みいただき、ありがとうございました。
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